くるくる回る月の満ち欠けのように

 アナタに向かう心も変わる。


 くるくる回る落ちる花弁

 くるくるくるくる

 回る回る

 輪廻のように


 変わる事は不実ですか?

 

 

 小さな棘







 唐突に立ち止まり、沢山並べられたTV画面を食い入るように見つめる担任に

 前方を歩いていた少年二人が立ち止まる。

 基本的に素っ気無い二人だ、別にもうし合わせて一緒にいるわけでもない。

 このまま置いて帰ったっていい。

 

 ・・・なのに。

 

 竜と隼人は大きく目を見開いて、次の一瞬互いにチラと目線を合わせた。

 電気店の軒先で、TVを見ながら思いつめた顔をした担任の横顔。

 その瞳にチカリと光の粒が見える。





 

 「なんだぁ〜?TV欲しいのか?」

 「貧乏教師は辛ぇな」



 

 仕方なしに近寄って声をかけると、丁度ニュースの画面が切り替わる所だった。

 最後の残像が、二人の網膜に南の熱い大地を写す。

 

 担任は寄ってきた二人に、慌てて目元を拭う。

 でも、バツが悪いのかこちらを見ようとはしなかった。

 

 「買ってくだパイ」

 

 隼人が手を差し出して友人を見れば、パシンとその手を叩いた竜が人の悪い笑みを浮かべる。

 

 「お前が買ってやれ」

 

 影のない明るい掛け合いに、横顔を向けたままの担任がズズ、と鼻をすすって応える。

 

 

 「・・・・お前らって、なんか、飴と鞭みたい」

 

 

 口元がうっすらと笑みを浮かべる。

 そのまま二人を見上げた瞳に、もう涙はなかったけれど、少しだけ赤味を帯びていた。

 なんでか、少年は二人同時に胸に手を当てる。

 

 

 ――――胸に刺さった小さな棘

 

 

 けれど、ひるんだのは一瞬で。

 気づまりな空気を一蹴すべく。軽い会話を続ける。

 こういったところは流石幼馴染、あ、うんの呼吸。

 

 

 

 「俺が飴?」

 「お前がムチ」







 

 

 TV画面に映った人は、錯覚だった。

 ただ、アフリカだっただけ。

 ただ、そこで活動する人間の活動をニュースで流していただけ。

 ただ・・・懐かしい顔がよぎったように、見えただけ。

 

 なんでそれがこんなにも目頭を熱くさせるのか。 

 久美子は考えない事にしていた。

 

 答えが出たって仕方のない事

 

 ただ、懐かしかっただけだ。

 少しだけ、心臓が止まりそうになっただけ・・・。

 

 少し、涙が出ただけ・・・・。






 

 「買ってくだパイ」

 「お前が買ってやれ」




 

 目の前に、今の教え子が二人。

 なんだか、急に胸の中に優しい気持ちが広がって、自然と微笑む。

 

 

 似てるような、似てないような。

 「友達」という分かりやすい「形」をもった二人。

 自分とも、「生徒と教師」というわかりやすい「形」を持っている。

 それがひどくホッとさせる。

 「形」があるのは、安心感がある。

 

 

 笑いながら顔を上げ、二人の少年―――竜と隼人を見比べた。


 

 「・・・・お前らって、なんか、飴と鞭みたい」

 

 

 絶妙に支えあう態度が、どちらが飴かムチとかではなく、バランスが良かった。

 そんな関係が少し羨ましかった。

 当の見比べられたふたりはといえば、互いを指差しあってオレが飴だ、お前が鞭だと擦り付け合う。

 

 

 「オレが飴だな、竜はやっぱムチでしょ、サドっぽいし」

 「サド言うな、だいたい、サドってのはお前みたいなヤツを言うんだよ」

 「え〜、じゃあお前マゾ?」

 「サドマゾから離れろっつの」

 

 久美子も二人に習ってちゃちゃを入れる。

 

 「ああゴメンゴメン、どっつかっつーと、ボケとツッコミ?」

 

 今度はお前がボケだと擦り付け合っているのを見て、堪えきれなくなった久美子は声を立てて笑った。

 




 

 今泣いた鴉がもう笑って。

 焦らされた二人は拍子抜けしたが、それでいいと思った。


 

 コイツが笑ってる方が、なんだかいい。

 コイツは泣いてるより笑っててほしい。

 理由なんてわかんないけど。

 とにかく、そんなカンジ。




 

 似てないようで、似てる二人。

 赤い瞳を見た時の衝撃も、友人同士は同じく受けた。

 

 

 小さな棘も、仲良く二人同時に突き刺さった・・・。



 

 そう。

 ゆるやかに。

 同じように

 落ちてゆく。






 立ち止まった張本人の女が、歩みを再会させる。

 申し合わせてもいないのに、その後に従う二人。

 少年二人は、何故か網膜に残った赤い瞳と、熱い大地の映像に心を奪われていた。

 

 

 「興味」という形でもたげた疑問は

 けれど

 「興味本位」にならなかった為か、問う言葉をもたない。



 コイツが笑ってるならいい

 けど


 

 ・・・なんで、お前、泣いたんだよ?




 

 歩き出した三人の後を北風が音を立てて吹きぬけた。





 

 クルリと振り返った久美子はいつも通りの笑顔をみせる


 

 

 「ラーメン!食ってかねぇ?」


 

 チラリと、交わった竜と隼人の視線。

 呆れたように、ほっとしたように、和らいだ表情。



 

 「奢りな」

 「チャーシューで大盛り」




 

 END

 

 

 ★有希っちへ〜v
 一応、竜→久美、隼人→久美 
なんか、チラリと南の方にいった人の影が見え隠れ(苦笑)

 ★雪乃っちへ〜v
 
慎ちゃーーーーーーん!!!!!!!(泣)←変わりに叫んだり?
 何って言うか…ホント「らしい」という言葉がピッタリだねぇ、さすがです><
 久美子姐さんも、隼人も竜も、こんな感じなんだろうなァ・・ドラマ見てるみたいですぅ!(感涙)
 流れるこの切ない中にある、優しい空気、私の大好物だワ・・雪乃っち、座布団10枚だよぉvv